駅前の再開発に伴い、高層ビル内の店舗として生まれ変わりました、江戸前の老舗寿司店「金太楼鮨」の南千住店です 。高級食品であった寿司を、庶民が楽しめるものにした功績で知られる金太楼鮨ですが、その親しみやすさを継承しながらも、くつろぎとゆとりのある、空間と時間をお楽しみいただける店舗を目指しました 。 デザインのテーマは、東京湾の原風景です。葦原と水辺空間の広がりを表現しました 。入口を入ると、まず大きなカウンターが目に飛び込みます。その向こうには、ライトアップされた塗り壁、さらに天井の半分を覆う葦簾が、大きな空間の広がりを演出しています 。装飾的なアイテムに頼ることなく、スケール感で表現することが、東京湾の原風景を想起させる最良の方法だと考えました 。 カウンター向かいの塗り壁は、さざ波をイメージした櫛引模様を施し、ライトアップと清潔感を演出するガラススクリーンによるきらめきが、浜辺の空間をかたち作っています 。ライトアップされた塗り壁を背景に仕事をする板前は、まるでステージに上がった演者のようです。その見事な技や職人とのやりとりを、より印象深いものになると思います 。 個室は、水辺空間の霞をイメージしたガラススクリーンで緩やかに視線を遮りつつ、上部にはカウンターの天井から続く葦簾が、空間の連続性を保っています 。客席は、湾内に入り込んだ水路空間をイメージいたしました 。すべての壁には下部から間接照明が仕込まれており、街並みを想起させる趣きを添えております 。 壁の仕上げには珪藻土を使用し、素材感を際立たせるとともに、臭いや湿度の調整など、快適な空気環境の維持にも配慮しました 。